和歌と俳句

若山牧水

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

わが郷の 稲のなかばに だもしかぬ みじかきを刈る 毛の国人は

刈りあとの 稲田に生ふる 苔草の あをあをしきを いま鋤き返す

つぎつぎに 影を投げつつ 連なるや 朝日さしそふ 雪のむら山

峰を離り 空にながれし 朝雲の いま焼けそめぬ 雪の山のうへに

とほ山に 降れる新雪 この朝の 澄めるに見れば 寒けくし見ゆ

たのしみて けふぞ入り来し 上野の むら山の峰に 秋の雪積めり

町裏に そそり立ちたる とがり山 秋ふかき山を 雪おほひたり

よべ降りし 時雨に雪の とけそめて 黄葉の山の 襞に残れり

こがらしの あとの朝晴 間もなくて 軒うすぐらみ 時雨降るなり

凩の 吹きしくなべに わが宿の そぎへの山の 雪とび来る

山かげの 温泉の小屋の 破れたれば 落葉散り浮く そのぬるき湯に

寄るをこめて こがらし荒び 岩かげの 温泉の湯槽 今朝ぬるみたり

かはしもの 峡間の橋に 秋日さし あきらかなれや いま人渡る

わが行くは 山の窪なる ひとつ路 冬日ひかりて 氷りたる路

日輪は わが行くかたの 冬山の 山あひにかかり 光をぞ投ぐ

冬木立 おち葉のかげに あらはれて 真しろき岩を 親しとぞおもふ

あとさきや 足袋のうへにも 来て落つる けふの山路の 諸木の落葉

椋の木は 葉の散る遅し 冬山の 日の照るところ その風きこゆ

上野の 越後にとなる 山あひの 村は軒ごとに 桐を植ゑたり

山里は 雪来るはやく 炭小屋の 軒のせまきに 稲かけ乾せり