腹がいたいみんみん蝉
夕焼しづかな糸瓜に棚をこしらへる
庵にも赤い花が咲いてゐる日ざかり
人去れば青葉とつぷり暮れた
これでをはりのけさの筍をぬく二本
ぬくよりむくより筍のお汁が煮えた
ゆふべはうれて枇杷の実のおちるしめやかさも
とほく郭公のなき何かこひしい
かぼちやおほきく咲いてひらいておばあさんの顔
梅雨ぐもり、見たことのある顔がくる
青田のまんなかを新国道はまつすぐな旗立てて
これで昼飯にしよう青田風
黴だらけの身のまはりをあらうてはあらふ
まへもうしろも耕す声の青葉
かみなりうつりゆく山のふかみどり
街へ出かける夕立水のあふれてゐる
夕立が洗つていつた月がまともで
炎天のましたをアスフアルトしく
胡瓜の手と手と握りあつた炎天
蛍もいつぴき
わかれてきた道がまつすぐ
みんないんでしまつた炎天
石に腰かけあほぐや青葉
山の青さ湯のわく町で泊らうとする
このままでかへるほかない草蛍
其中一人として炎天
青田いちめんの長い汽車が通る
炎天かくすところなく水のながれくる
ふるさとちかく住みついて雲の峰
日ざかりのお地蔵さまの顔がにこにこ
もいでたべても茄子がトマトがなんぼでも
炎天の虫をとらへては命をつなぐ
重荷おろすやよしきりのなく
吸はねばならない血を吸うて殺された蚊で
とまればたたかれる蠅のとびまはり
月あかり蜘蛛の大きい影があるく
水が米つく青葉ふかくもアンテナ
合歓の花おもひでが夢のやうに
汗はしたたる鉄鉢をささげ
鉄鉢の暑さをいただく
蜩よ、私は私の寝床を持つてゐる
山は青葉の、青葉の奥の鐘が鳴る
蝉しぐれここもかしこも水が米つく
山からあふれる水の底にはところてん
御馳走すつかりこしらへて待つ蜩
道筋はおまつりの水うつてあるかなかな
うらは蜩の、なんとよい風呂かげん
かなかな、かなかな、おまつりの夜があける
山ほととぎす解けないものがある
おのが影のまつすぐなるを踏んでゆく