我肌にほのと生死や衣更
着るまへの束の間ほせし袷かな
筍に蝶とんで白し草の中
浸したる筍の水かへにけり
葉桜に風衰へし夕べかな
葉桜のなほちる花英ありにけり
葉桜の吹かるる枝の広葉かな
葉桜の幹も蘖も大埃
麦畑に立てし幟や一つ家
くもり来ていよよはためく幟かな
藪中へ夕日沈める幟かな
夜の灯へ蜘蛛巣をかけし若葉かな
代掻きし田のひろびろと若葉かな
いちさきの初筍の小ささよ
藪垣を出し黒蝶や芥子畑
芥子の宿夕日に見えて麦の中
己が葉を埋めくづるる牡丹かな
ただ見るや終りにちかき牡丹園
夕づきて牡丹園にある影日向
夕づきて俄にさむし牡丹園
明け易き道のほとりの蓬かな
明易き戸ぼそのうちの蚊帳かな
明易き雨戸とび出し鼠かな
明易き戸よりかへりぬ溝鼠