和歌と俳句

原 石鼎

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我肌にほのと生死や衣更

着るまへの束の間ほせしかな

筍に蝶とんで白し草の中

浸したる筍の水かへにけり

葉桜に風衰へし夕べかな

葉桜のなほちる花英ありにけり

葉桜の吹かるる枝の広葉かな

葉桜の幹も蘖も大埃

麦畑に立てしや一つ家

くもり来ていよよはためく幟かな

藪中へ夕日沈める幟かな

夜の灯へ蜘蛛巣をかけし若葉かな

代掻きし田のひろびろと若葉かな

いちさきの初筍の小ささよ

藪垣を出し黒蝶や芥子畑

芥子の宿夕日に見えて麦の中

己が葉を埋めくづるる牡丹かな

ただ見るや終りにちかき牡丹園

夕づきて牡丹園にある影日向

夕づきて俄にさむし牡丹園

明け易き道のほとりの蓬かな

明易き戸ぼそのうちの蚊帳かな

明易き雨戸とび出し鼠かな

明易き戸よりかへりぬ溝鼠