和歌と俳句

万葉集の東歌

足柄のをてもこのもにさすわなのかなまるしづみ子ろ我れ紐解く

相模嶺の小峰見退くし忘れ来る妹が名呼びて我を音し泣くな

武蔵嶺の小峰見隠し忘れ行く君が名懸けて我を音し泣くる 或本曰

我が背子を大和へ遣りて待つしだす足柄山の杉の木の間か

足柄の箱根の山に粟蒔きて実とはばれるを粟無くもあやし

鎌倉の見越の崎の岩崩えの君が悔ゆべき心は持たじ

ま愛しみさ寝に我は行く鎌倉の水無瀬川に潮満つなむか

百づ島足柄小舟歩き多み目こそ離るらめ心は思へど

足柄の土肥の河内に出づる湯のよにもたよらに子ろが言はなくに

足柄の麻万の小菅の菅枕あぜかまかさむ子ろせ手枕

足柄の箱根の嶺ろのにこ草の花つ妻なれや紐解かず寝む

足柄のみ坂畏み曇り夜の我が下ばへを言出つるかも

相模道の余綾の浜の真砂なす子らは愛しく思はるるかも

足柄の安伎奈の山に引こ舟の後引かしもよここば子がたに

足柄のわを可鶏山のかづの木の我を誘さねも門さかずとも

薪伐る鎌倉山の木垂る木を松と汝が言はば恋ひつつやあらむ


多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子のここだ愛しき

武蔵野に占部肩焼きまさでにも告らぬ君が名占に出にけり

武蔵野のをぐきが雉立ち別れ去にし宵より背ろに逢はなふよ

恋しけば袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色に出なゆめ

いかにして恋ひばか妹に武蔵野のうけらが花の色に出ずあらむ 或本曰

武蔵野の草葉もろ向きかもかくも君がまにまに我は寄りにしを

入間道の於保屋が原のいはゐつら引かばぬるぬる我にな絶えそね

我が背子をあどかも言はむ武蔵野のうけらが花の時なきものを

埼玉の津に居る舟の風をいたみ綱は絶ゆとも言な絶えそね

夏麻引く宇奈比をさして飛ぶ鳥の至らむとぞよ我が下延へし