和歌と俳句

万葉集の東歌

日の暮れに碓氷の山を越ゆる日は背なのが袖もさやに振らしつ

我が恋はまさかも愛し草枕多胡の入野の奥も愛しも

上つ毛野安蘇のま麻むらかき抱き寝れど飽かぬをあどか我がせむ

上つ毛野乎度の多杼里が川道にも子らは逢はなもひとりにみして

上つ毛野小野の多杼里があはぢにも背なは逢はなも見る人なしに 或本曰

上つ毛野佐野の茎立折はやし我れは待たむゑ来とし来ずとも

上つ野まぐはしまとに朝日さしまきらはしもなありつつ見れば

新田山嶺にはつかなな我に寄そりはしなる子らしあやに愛しも

伊香保ろに天雲い継ぎかぬまづく人とおたはふいざ寝しめ刀羅

伊香保ろの沿ひの榛原ねもころに奥をなかねそまさかしよかば

多胡の嶺に寄せ綱延へて寄すれどもあにくやしづしそぼ顔よきに

上つ毛野久路保の嶺ろの葛葉がた愛しけ子らにいや離り来も

利根川の川瀬も知らず直渡り波にあふのす逢へる君かも

伊香保ろの夜左可のゐでに立つ虹の現はろまでもさ寝をさ寝てば

上つ毛野伊香保の沼に植ゑ小水葱かく恋ひむとや種求めけむ

上つ毛野可保夜が沼のいはゐつら引かばぬれつつ我をな絶えそね

上つ毛野伊奈良の沼の大藺草外に見しよは今こそまされ

上つ毛野佐野田の苗の群苗に事は定めつ今はいかにせも

伊香保世欲奈可中次下於毛比度路久麻許曽之都等和須礼西奈

上つ毛野佐野の舟橋取り離し親は放くれど我は離るがへ

伊香保嶺に雷な鳴りそね我が上には故はなけどお子らによりてぞ

伊香保風吹く日吹かぬ日ありと言へど我が恋のみし時なかりけり

上つ毛野伊香保の嶺ろに降ろ雪の行き過ぎかてぬ妹が家のあたり

上つ毛野安蘇山つづら野を広み延ひにしものをあぜか絶えせむ

伊香保ろの沿ひの榛原我が衣に着きよらしもよひたへと思へば

しらとほふ小新田山の守る山のうら枯れせなな常葉にもがも

下つ毛野三毳の山のこ楢のすまぐはし子ろは誰が笥か持たむ

下つ毛野安蘇の川原よ石踏まず空ゆと来ぬよ汝が心告れ


会津嶺の国をさ遠み逢はなはば偲ひにせもと紐結ばさね

筑紫なるにほふ子ゆゑに陸奥の可刀利娘子の結ひし紐解く

安達太良の嶺に伏す鹿猪のありつつも我れは至らむ寝処な去りそね

陸奥の安達太良真弓はじき置きて反らしめきなば弦はかめかも