和歌と俳句

若山牧水

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君さらに 笑みてものいふ 御頬の上に ながるる涙 そのままにして 

涙もつ 瞳つぶらに 見はりつつ 君かなしきを なほ語るかな

朝寒や 萩に照ろ日を なつかしみ 照らされに出し 黒かみのひと

遠白う ちひさき雲の いざよへり 松の山なる 桜のうへを

水の音に 似て啼く鳥よ 山ざくら 松にまじれる 深山の昼を

なにとなき さびしさ覚え 山ざくら 花あるかげに 日を仰ぎ見る

怨みあまり 切らむと云ひし くろ髪に 白躑躅さす ゆく春のひと

忍草 雨しづかなり かかる夜は つれなき人を よく泣かせつる

山ふかし 水あさぎなる あけぼのの 空をながるる 木の香かな

君恋し 葵の花の 香にいでて ほのかに匂ふ 夕月のころ

こおろぎや 寝ものがたりの 折り折りに 涙もまじる ふろさとの家

さらばとて さと見合せし 額髪の かげなる瞳 えは忘れめや

別れてし そのたまゆらよ 虚ろなる 双のひとみに 秋の日を見る

酒倉の 白壁つづく 大浪華 こひしや秋の風冴えて吹く

まだ啼かず 片羽赤らみ かつ黒み 夕日のそらを 行く鳥のあり

窓ちかき 秋の樹の間に 遠白き 雲の見え来て 寂しき日なり

胸さびし 仰げば瑠璃の 高ぞらに みどりの雨の まぼろしを見る

行きつくせば 浪青やかに うねりゐぬ 山ざくらなど 咲きそめし町

山越えて 空わたりゆく 遠鳴の 風ある日なり 山ざくら花

君泣くか 相むかひゐて 言もなき 春の灯かげの もの静けさに