和歌と俳句

若山牧水

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午砲鳴るや けふは時雨れて 病院の えんとつの煙 濃くたちのぼる

白き帽子 白き衣着し をとめ等の 群れて笑へり ガラス戸ごしに

白樫の 山茶花のやや 茂りたる ちひさき庭の 病院のまど

病院の 広きガラスの 照りかへし 赤き夕日の 散れる冬の樹

わがすめる 二階の窓と 病院の 小高きまどの あひの冬の樹

カアテンを引く音くるくるくるくると 冴えつつ窓に 夕日は赤し

はらはらと 時雨ふる日の 病院の 二階のガラスに うつる看護婦

病院に 入りたしと思ひ 落葉めく わが身のさまに ながめいりたる

病院の つめたきなどべ 薬の香 記憶に湧きて それもなつかし

病院に それこれの人を 見舞ひたる 記憶をあつめ たのしみて居る

そこもわろし 此処も痛むと せかせかと 身うちのやまひ かぞへても見し

焼く如き 苦きくすりを 飲みたしと こころ黄ばみて ねがふなりけり

をりをりに 死にゆきし友を 指折りて かぞへつつ こころ冷えてゐにけり

静けさを こひもとめつつ 来にし身に 落葉木立は 雨とけぶれり

目も重く 落葉ぼこずゑ 見上ぐれば 欅の木立 雨とけぶれり

あぶらなし 空にけぶれる 落葉の欅も冬の太陽もよし

おち葉焚く けむりの中に 動けるは をみなか男か とほき木の間に

おち葉焚く をちこちの煙 わがこころも うつらうつらと 煙るなりけり