和歌と俳句

若山牧水

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あはれ悲し ここらダリアの 花を折り 倦める心を とりよそはばや

くつきりと 秋のダリアの 咲きたるに 倦める心は 怯えむとする

黙然と ダリアの花に 見入りぬれば こころしばらく 晴れてゐにけり

たけたかき ダリアの園に ほそほそと 吹く秋風は 雨の如しも

ものおもひ 戸ざさずあれば 秋の日の 風はわが頬の 熱吸ひてゆく

風もなき 秋の日一葉 また一葉 おつる木の葉の うらまるるかな

藍色の 風のかたまり 樹によどみ 郊外の秋 ふかみたるかな

なか空に ちり立つ木の葉 ひそひそと 秋の木立を われは過ぐなり

骨と肉の すきをぬすみて 浸みもいる この秋の風 しじに吹くかな

おほらかに 風無き空に 散りてゐる 木の葉ながめて 窓とざすかな

吸ふいきの 吐く呼吸のすゑに あらはるる さびしさなれば 追ふよしもなし

生きたるもの 死にたるものの けぢめさへ 見わかずなりて 涙こぼるる

しみじみと おとぎ噺を かたり合ふ 児等ありき街路の 夕やみのなかに

すがれつつ 落ちゆく秋の 木の葉より いたましいかな われの言葉は

ひとびとの 顔のつめたく 見えわたる けふのつどひの 家を吹く風

古時計 とまれる針の 錆びはてて むなしきかたを さしてゐるなり

つめたきは 風にありけり わがこころ 白布の如く 吹かれたるかな