倦みはてし わが身つつみて 降るものか 濡れゆく屋根の 秋雨の音
めづらしく こころ晴れつつ ながめ入る けふ秋雨の かなしくもあるか
樫の木と 山毛欅の木立と さしかはす 小枝小枝に 秋深みたれ
稀なれや 今日のうらら日 庭さきの 真冬篠竹 ひかりてやまず
酒のめば なみだながるる ならはしの それもひとりの 時に限れる
めいめいの こころそれぞれに 向きてゆく この友どちを とどめかねつも
梅の木の 蕾みそめたる 庭の隅 出でて立てれば さびしさおぼゆ
梅のはな 枝にしらじら 咲きそむる つめたき春と なりにけるかな
公園に 入れば先づ見ゆ 白梅の 塵にまみれて 咲けるはつ花
公園の 白けわたれる 砂利みちを ゆき行き見たり 白梅の花
椎の木の 葉にやや赤み 見ゆるぞと おもふこの日の こころのなごみ
冬深き 日比谷公園 ゆき行けば 楮しら梅 さきゐたりけり
何処にゆかむ 山ことごとし 海も憂し 多摩川ぞひの 冬木の中か
行くべくば みちのくの山 甲斐の山 それもしかあれ 今日は多摩川
案のごとく 川は痩せ痩せ 流れをり 岸の冬木も またその如く
戸をさすや 窓のめぐりは 落葉木の 櫟のみなる 冬の夜の宿
多摩の川 真冬ほそぼそ 痩せながれ 音を立つるか 冬の夜ふけに
多摩川の 冬の川原の さざれ石 くぐれる水か 枕には来る
雪のこる 痩庭ながめ 朝はやく 宿屋にのめる 麦酒の濁
ひる過ぎて 庭の冬竹 さやさやに 鳴りさやぎつつ 西晴れにけり
知る人の 顔を見ざりし 今日ひと日 ひと日の旅を うれしとはする