日なかには 人目ゆゆしみ おぼろ夜の くだちに妻と 来し桜狩
いそいそと よろこぶ妻に 従ひて 夜半の桜を 今日見つるかも
花見むと いでては来つれ ながらふる ひかりのなかを ゆけばさびしも
うらうらと 芝生かぎろひ わがひとり 坐りて居れば 遠き桜見ゆ
けふもまた 風か立つらし ひんがしに 雲あからひき 桜さかりなり
風ひたと 落ちし軒端の さくら花 夕かけて雨の 降りいでにけり
いづくより 漏るるものかも 部屋のうち 風ありて春の 真昼なりけり
春風や 窓しめて部屋の まんなかに 机はおけど 来て溜るちり
一杯を おもひ切りかねし 酒ゆゑに けふも朝より 酔ひ暮したり
それほどに うまきかと人の とひたらば なんと答へむ この酒の味
なにものにか 媚びてをらねば たへがたき さびしさ故に 飲めるならじか
酔ひぬれば さめゆく時の さびしさに 追はれ追はれて のめるならじか
しづしづと 天日のもとに 生くことの 出来ねばこそあれ 酔ひどれて居る
いと浅き 芝原の火の ぢりぢりと けふもこころに 燃えやまぬかも