和歌と俳句

若山牧水

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津軽野や 落葉木立の まばらかに つづける村の 端に住む君

戸を繰れば 雪は背よりも 高かりし その窓かげに 今日もこもるか

君をおもへば たもの根もとに よどみたる 冬野の川ぞ おもかげに見ゆ

いまいちど あひておかねば ならぬごとき おもひは苦し いつ逢ふべしや

津軽野を おもへば遠し いつしんに 君をおもへば いよいよ遠し

あやふかる もろかるものに 故はなく おもひなされて こひしきぞ君

みちのくの 津軽のはてと おもふより こころいよいよ こひしくなりぬ

戸棚の戸 あけたてすれば 鳴りひびき 氷れる夜半 にかける蕎麦かき

そばかきの 上手の我妹 とくいねて 小夜の深きに かけるそばかき

そばかきを かきつつふつと おもひ出し 戸棚あくれば ありし残り酒

信濃なる 彼もさびしき ひとりなる 友が送りし これの蕎麦の粉

そばかきの 辛からぬはた 甘からぬ この蕎麦かきの 味のよろしも