和歌と俳句

若山牧水

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うろこ雲 空にながれて しらじらと 輝けるかげの 夏の夜の月

ひさしくも 見ざりしごとき おもひして けふあふぐ月の 澄めるいろかも

見てあれば 見てあるほどに うろこ雲 ながれ速みて 冴ゆる月かげ

軒端なる 欅の並木 さやさやに 細葉そよぎて 月更けにけり

或時は ひとのものいふ 声かとも 月の夜ふけの 葉ずれ聞え来

井戸端に わが浴び浴ぶる 水の音 水のたえまに 蜩きこゆ

酔ひざめに 限るべしやは 起き出でて 朝井戸に飲む この水の味

起き出でて 裸足に立てる 朝庭の 冷たき土に 媚ぶるこころか

ひんがしの 白みそむれば 物かげに 照りてわびしき みじか夜の月

疲れつつ 起き出で来れば みじか夜の 月残りゐて 黍の葉の影

あやふきは 黍の葉ずゑの つゆよりも 朝けしばしの わが静心

疲れたる ひとのみぞ知る しののめの 露の干ぬまの このたのしさは

此処はなほ ものかげなれど 朝空を 輝きてゆく 白鷺の鳥

あをあをと 朝日さしゐて 森の奥 声のかぎりの 蜩きこゆ

庭の隅 わがつくりたる 黍畑に ちさき露見え 朝朝晴るる

いつとなく 黒みて見ゆる 楢の葉に 今朝ふく風の あはれなるかも

暫くは 世のことぐさを 思はずて ひとりぞあらむ この朝風に