和歌と俳句

藤原清輔

和歌の浦に 年経てすみし あしたづの くもゐにのぼる けふのうれしさ

あしたづの 和歌の浦みて 過ぎつるに 飛び立つばかり 今ぞうれしき

たちかへる くもゐのたづに 言づてむ ひとり沢辺に 鳴くと告げなむ

もしせばき 国にやしづむと 思ひしに よくのぼりぬと きくぞうれしき

ゆくすゑを 祝ひて出づる 別れ路に こころもとなき 涙なりけり

われひとり 急ぐ旅ぞと 思ひつる よをこめてのみ たつ霞かな

はしりゐの 筧の水の 涼しさに 越えもやられぬ 逢坂の関

よろづ代と たのみし君を 宵のまの 空の煙と 見るぞかなしき

ありし世に ゑしのたぐひは すみにしを こはまた何の 煙なるらむ

ひとなみに あらぬ袂は かはらねど 涙はいろに なりにけるかな

墨染に あらぬ袖だに かはるなり 深き涙の 程は知らなむ

さかき葉の うつろふだにも 憂かりしを ゆふはかりなき ここちこそすれ

植ゑおきし 君にぞ千代を ゆづらまし 神寂びにける 庭の松かな

なみだ川 その水上の いかならむ 末のみをだに 堰きもあへぬに

かけてだに 思はざりしを なみだ川 かかるうき瀬に 逢はむものとは

今はとて ちりぢりになる ふるさとは 木の葉さへこそ とまらざりけれ

新古今集・哀傷
世の中は 見しも聞きしも はかなくて むなしき空の 煙なりけり

妹背川 かへらぬ水の わかれには 聞きわたるにも 袖ぞ濡れける

聞きわたる 袖だに濡るる 妹背川 水のこころを 汲みて知らなむ

ありし世の 月日ばかりは めぐれども 昔の今にに ならばこそあらめ