こふふとも 消えじとぞ思ふ 露にても かめゐの水に むすぶ契は
昔みし 雲のかけはし かはらねど わが身ひとつの 途絶えなりけり
やしまもる 雲のかけはし かはらねば たゆと名残りは ふみ見ざるべき
けふこそは くらゐの山の 峰までに 腰二重にて のぼりつきぬれ
くらゐ山 老いの坂ゆく しるしには なほ峰までも のぼらざらめや
あまたたび なびきてさきに 過ぎにしを しゐのもちふに われをおもへる
世にしげき わかむらさきを かきわけて ふるねを何に ほり求むらむ
とりのこの ありしにもあらぬ 古巣には かへるにつけて ねをやなくらむ
かたがたに なきて別れし むら鳥は 古巣にだにも かへりやはする
たまたれの 御簾のうちより 出でしかば そら焚きものと 誰も知りにき
これをみよ 春のきぎすの われもさぞ つまこひかねて なれるすがたを
つまこひに なれるきぎすの さま見れば われさへあやな ほろほろとなく
双葉より 花咲くまでに みなれきの 四年の春や 霞へだてむ
こもり沼に 沈むかはづは 山吹の 花のをりにそ 音はなかれける
世とともに 心ばかりや こがるらむ 舟ながしたる 里のあま人
はるかさむ 方もおぼえず 里のあまの 焚く藻のけぶり 下むせびつつ
浦風は 四方に吹くとも 里のあまの 藻塩のけぶり うるはしみとて
我が身とは 思はぬものを 世の中も 人のためこそ 捨てまほしけれ
昔にも あらぬなくさの 浜千鳥 跡ばかりこそ かはらざりけれ
世を経ても 逢ふべかりける 契りこそ 苔の下にも 朽ちせざりけれ
千載集・雑歌
今よりは ふけゆくまでに 月は見じ そのこととなく 涙落ちけり
新勅撰集・雑歌
ふるさとの ひとにみせばや しらなみの きくよりこゆる すゑのまつやま