さを鹿の いる野の薄 ほのめかせ 秋のさかりに なりはてずとも
くらゐ山 谷のうぐひす 人知れず ねのみ流るる 春を待つかな
はるばると 山路をこえて 来る月に 宿かす雲の など無かるらむ
いにしへの 契は知らず あふひ草 思ひかけける けふぞうれしき
沢水に なくたづのねや きこゆらむ 雲居にかよふ 人に問はばや
あしたづの 沢辺のこゑは 遠くとも などか雲居に 聞えざるべき
もらさでは あらじと思へば かしは木の もりのわたりを 頼むばかりぞ
われひとり 年をかさねて かざすかな 幾重になりぬ 山吹の花
年ふかく 雪にこもれる 山人は 春になりてや 出でむとすらむ
吹き上ぐる 風もあらなむ 人知れぬ 秋をみやまの 谷のふる葉を
この世には わすれがたみに つみもちて 老いのつとなる しのぶ草かな
うれしさの 袂にあまる ここちして 涙さへにも 零れぬるかな
昔より 清く涼しき やどのうちに 秋の宮ゆゑと 思ふべしやは
ゆかりまで あはれをかくる むらさきの ただひともとの 朽ちぞ果てぬる
むらさきの おなし草葉に おく露の そのひともとを 隔てやはせむ
まつやまの たよりうれしき 浦風に こころを寄せよ あまの釣舟
やへやへの 人だにのぼる くらゐ山 老いぬる身には 苦しかりけり
武蔵野の わかむらさきの 衣手は ゆかりまでこそ うれしかりけれ
めづらしき わかむらさきの 衣手は 老いの身にしむ ものにぞありける
何かおもふ 流れになびく 川柳 その根はつよし 朽ちも果てじぞ