和歌と俳句

源 実朝

夕月夜満つ潮あひの潟をなみ波にしをれて鳴千鳥かな

月清みさ夜ふけゆけば伊勢島やいちしの浦に千鳥なくなり

衣手に浦の松風さえわびて吹上の月に千鳥鳴なり

新勅撰集
風寒み夜の深行けば妹が島かたみの浦に千鳥なくなり

烏羽玉のいもが黒髪うちなびき冬ふかき夜に霜ぞおきける

片しきの袖こそ霜にむすびけれ待つ夜ふけぬる宇治の橋姫

かたしきの袖も氷ぬ冬の夜の雨ふりすさむあかつきのそら

夜を寒み河瀬にうかぶ水の泡の消えあへぬ程に氷しにけり

音羽山やまおろし吹くあふ坂の関の小川はこほりしにけり

更にけり外山のあらしさえさえて十市の里にすめる月かげ

比良の山やま風さむきからさきのにほのみづうみ月ぞこほれる

はらの池の蘆間のつららしげければたえだえ月の影はすみけり

あしの葉は澤べもさやにおく霜の寒き夜な夜な氷しにけり

難波潟あしの葉白くおく霜のさえたる夜半にたづぞ鳴なる

さ夜更て雲まの月の影見れば袖にしられぬ霜ぞ置ける

さよふけていなりのみやの杉の葉にしろくも霜の置きにけるかな

冬ごもりそれとも見えず三輪の山杉の葉白く雪の降れれば

み熊野のなぎのはしだり降る雪は神のかけてるしでにぞありける

つるのをかあふぎて見ればみねのまつこずゑはるかに雪ぞつもれる

やはた山こたかき松にゐるたづのはねしろたへにみ雪ふるらし