難波がた潮干にたてる蘆たづの羽しろたへに雪ぞ降りつつ
降りつもる雪ふむ磯の濱千鳥浪にしをれて夜半に鳴なり
みさごゐる磯辺にたてるむろの木の枝もとををに雪ぞ積れる
続後撰集・冬
ゆふさればしほ風寒し波間より見ゆる小島に雪はふりつつ
立のぼる煙は猶ぞつれもなき雪のあしたの塩釜のうら
ながむれば寂しくもあるか煙立つ室の八島の雪の下もえ
ゆふされば浦風寒しあまを舟泊瀬の山に雪ぞふるらし
巻向の檜原のあらしさえさえてゆつきがたけに雪ふりにけり
深山には白雪ふれりしがらきのまきのそま人道たどるらし
はらへただ雪わけ衣ぬきを薄み積れば寒し山あらしの風
まきの戸を朝明の雲の衣手に雪をふきまく山あらしの風
山里は冬こそことにわびしけれ雪ふみ分けてとふ人もなし
我庵は吉野のおくの冬ごもり雪ふり積てとふ人もなし
奥山の岩ねに生ふる菅の根のねもころころに降れるしら雪
おのづからさびしくもあるか山深み草の庵の雪の夕ぐれ
うちつけに物ぞかなしき初瀬山をのへの鐘の雪の夕暮
故郷はうらさびしともなき物を吉野のおくの雪の夕ぐれ
ゆふさればすず吹嵐身にしみて吉野のたけにみ雪ふるらし
新勅撰集
山たかみあけはなれ行横雲の絶え間に見ゆる嶺のしら雪
見わたせば雲井はるかに雪しろし富士の高根のあけぼのの空