和歌と俳句

源 実朝

ささの葉のみ山もそよに霰ふりさむきしもよをひとりかもねむ

雲ふかきみ山のあらしさえさえて生駒の嶽に霰ふるらし

はし鷹の今日や白斑にかはるらむとかへる山に雪のふれれば

雪降て今日とも知らぬ奥山に炭やく翁あはれはかなみ

すみがまの煙もさびし大原やふりにし里の雪の夕ぐれ

我門の板井の清水冬ふかきかげこそ見えね氷すらしも

冬ふかき氷やいたくとぢつらむかげこそ見えね山の井のみづ

冬ふかみ氷にとづる山川の汲む人なしと年や暮れなむ

新勅撰集
もののふのやそうぢ川を行水のながれてはやき年の暮かな

しら雪のふるの山なる杉村の過ぐる程なき年のくれかな

かづらきや雲をこだかみ雪しろし哀と思ふとしの暮かな

身につもる罪やいかなる罪ならむけふ降雪と共にけななむ

老らくの頭の雪をとどめ置てはかなの年やくれて行らむ

とりもあへずはかかく暮て行年のしばし留むる関守もがな

ちぶさ吸ふまだいとけなき緑子のともに泣きぬる年の暮かな

塵をだに据ゑじとや思ふ行年の跡なき庭をはらふ松風

うば玉のこの夜な明けそしばしばもまだ古年の内ぞと思はむ

はかなくて今夜あけなば行年の思出もなき春にやあはなむ