たまほこの道は遠くもあらなくに旅とし思へばわびしかりけり
くさまくら旅にしあればかりこもの思みだれて居こそ寐られね
たびごろも袂かたしきこよひもやくさのまくらにわがひとりねむ
露しげみならはぬのべのかりごろもころしもかなし秋のゆふぐれ
のべわけぬ袖だに露はをくものをただこのごろの秋のゆふぐれ
たび衣うらかなしかるゆふぐれのすそ野の露に秋かぜぞふく
旅衣すそ野の露にうらふれてひもゆふかぜに鹿ぞ鳴なる
秋もはやすゑのはらのに鳴鹿のこゑきく時ぞたびはかなしき
ひとりふす草の枕の夜の露はともなき鹿の涙なりけり
ひとりふす草の枕の露の上にしらぬのはらの月をみるかな
いはがねの苔の枕に露をきていくよみやまの月にねぬらむ
袖まくら霜をく床の苔のうへにあかすばかりのさよの中山
しながどりゐなののはらの笹枕まくらの霜ややどる月かげ
旅寝する伊勢の浜をぎ露ながらむすぶ枕にやどる月かげ
旅の空なれぬはにふの夜のとにわびしきまでにもる時雨かな
まれにきてきくだにかなし山がつの苔の庵の庭の松風
まれにきてまれに宿かる人もあらじあはれとおもへ庭の松風
かたしきの衣手いたくさえわびぬ雪ふかきよの峯の松風
あか月の夢の枕に雪つもりわが寝覚めとふ峯の松風
旅衣よはのかたしきさえさえて野中のいほに雪ふりにけり
逢坂の関のやまみちこえわびぬきのふもけふも雪しつもれば
雪ふりてあとははかなくたえぬとも越のやまみちやまずかよはむ
春雨はいたくなふりそたび人のみちゆき衣ぬれもこそすれ
春さめにうちそぼちつつあしひきの山路ゆくらむやま人やたれ