和歌と俳句

源 実朝

たまほこの道は遠くもあらなくに旅とし思へばわびしかりけり

くさまくら旅にしあればかりこもの思みだれて居こそ寐られね

たびごろも袂かたしきこよひもやくさのまくらにわがひとりねむ

露しげみならはぬのべのかりごろもころしもかなし秋のゆふぐれ

のべわけぬ袖だに露はをくものをただこのごろの秋のゆふぐれ

たび衣うらかなしかるゆふぐれのすそ野の露に秋かぜぞふく

旅衣すそ野の露にうらふれてひもゆふかぜに鹿ぞ鳴なる

秋もはやすゑのはらのに鳴鹿のこゑきく時ぞたびはかなしき

ひとりふす草の枕の夜の露はともなき鹿の涙なりけり

ひとりふす草の枕の露の上にしらぬのはらの月をみるかな

いはがねの苔の枕に露をきていくよみやまの月にねぬらむ

袖まくら霜をく床の苔のうへにあかすばかりのさよの中山

しながどりゐなののはらの笹枕まくらの霜ややどる月かげ

旅寝する伊勢の浜をぎ露ながらむすぶ枕にやどる月かげ

旅の空なれぬはにふの夜のとにわびしきまでにもる時雨かな

まれにきてきくだにかなし山がつの苔の庵の庭の松風

まれにきてまれに宿かる人もあらじあはれとおもへ庭の松風

かたしきの衣手いたくさえわびぬ雪ふかきよの峯の松風

あか月の夢の枕に雪つもりわが寝覚めとふ峯の松風

旅衣よはのかたしきさえさえて野中のいほに雪ふりにけり

逢坂の関のやまみちこえわびぬきのふもけふも雪しつもれば

雪ふりてあとははかなくたえぬとも越のやまみちやまずかよはむ

春雨はいたくなふりそたび人のみちゆき衣ぬれもこそすれ

春さめにうちそぼちつつあしひきの山路ゆくらむやま人やたれ