和歌と俳句

正岡子規

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春早き 多摩のわたりに 舟待てば 梅見の人の 梅折りて来し

菅原や 伊久米伊理毘古 伊理毘古の 陵こめて 立つ霞かも

陵の 松の梢の 春霞 再び鶴は 歸らざりけり

静なる 北の家陰の 朝陰に 鶯来鳴く 竹藪にして

朝な朝な 竹藪に鳴く 鶯の 庭の木迄は いまだ来ずけり

夜清き 片山陰の 梅林 月照り満ちて 鶴啼きわたる

わが友は こよひの月に 月が瀬や 梅散る山に 詩を吟ずらん

春風に 立ちいでて見れば 上野や 黒髪山に 雪残る見ゆ

國境 わが越え来れば 八重山の 頂の峰に 雪ぞ残れる

雨になく 庭の そぼぬれて 羽ばたきあへず 枝移りする

草若き 故郷の野に 旅寐して 昔の事ぞ 夢に見えつる

われ昔 をさな遊びに 此道に 草摘みし事を 今思ひいづ

傘を 手にさしもちて 春雨の 古川浅瀬 人かちわたる

門並に 柳植ゑたる 家つづき 春雨細く 飛ぶなり

説法の 今日ありといふ 里寺の 椿の花は 今盛りなり

旅にして 岡邊の小道 日は暮れぬ 子を思ふ雉の 聲も悲しく

ところどころ つつじ花咲く 小松原 岡の日向に きぎす居る見ゆ

今日も亦 地下の雄猫や さそひけん おもとの命婦 待てで歸らぬ

さし向ふ 明家の屋根に から猫の 眠るも見えて 遅き春かな

山陰の 桑畑遠み 日は暮れぬ 蠶や飢ゑつらん 我も飢ゑたる

法師等も 住まずなりぬる 山寺の 椿の花を 折りて歸りつ