新古今集・雑歌
暁のゆふつけ鳥ぞあはれなる長きねぶりを思ふ枕に
鳴鶴の思ふ心は知らねども夜の聲こそ身にはしみけれ
身のうさを思ひくだけばしののめの霧間にむせぶ鴫の羽がき
はかなしや風に漂ふ波の上に鳰の浮巣のさても世にふる
打払ひ小野の浅茅に刈る草のしげにが下に鶉たつなり
君がへん千代松風に吹きそへて竹も調ぶる聲かよふなり
天の下めぐむ草木のめも春に限りも知らぬ御代の末々
いくとせのいくよろづよか君が代に雪月花のともを待ち見む
亀のをの岩ねが上にゐるたづも心してける水の色かな
君がよはひ みくまの川の さざれ石の 苔むす岩に なりつくすかな
千載集・春
ながむれば 思ひやるべき かたぞなき 春のかぎりの 夕暮の空
千載集・夏
神山の ふもとになれし 葵草 引わかれてぞ 年は経にける
千載集・秋
草も木も 秋の末葉は 見えゆくに 月こそ色も かはらざりけれ
千載集・賀
うごきなく なほよろづよぞ 頼むべき はこやの山の 峯の松かげ
千載集・恋
はかなしや 枕さだめぬ うたたねに ほのかにまよふ 夢の通ひ路
千載集・恋
袖の色は 人のとふまで なりもせよ 深き思ひを 君し頼まば
千載集・雑歌
みたらしや 影絶えはつる 心地して しがのうらぢに 袖ぞぬれにし
千載集・釈教
ふるさとを ひとりわかるる 夕にも をくるは月の 影とこそ聞け