和歌と俳句

大伴家持

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さ夜更けて暁月に影見えて鳴くほととぎす聞けばなつかし

ほととぎす聞けども飽かず網捕りに捕りてなつけな離れず鳴くがね

ほととぎす飼ひ通せらば今年経て来向ふ夏はまづ鳴きなむを

山吹をやどに植ゑては見るごとに思ひはやまず恋こそまされ

藤波の花の盛りにかくしこそ浦漕ぎ廻つつ年に偲はめ

叔羅川瀬を尋ねつつ我が背子は鵜川立たさね心なぐさに

鵜川立ち取らさむ鮎のしが鰭は我れにかき向け思ひし思はば

ほととぎす鳴く羽触れにも散りにけり盛り過ぐらし藤波の花

ほととぎす鳴き渡りぬと告ぐれども我れ聞き継がず花は過ぎつつ

我が此処だ偲はく知らにほととぎすいぢへの山を鳴きか越ゆらむ

月立ちし日より招きつつうち偲ひ待てど来鳴かぬほととぎすかも

妹に似る草と見しより我が標めし野辺の山吹誰れか手折りし

つれもなく離れにしものと人は言へど逢はぬ日まねみ思ひぞ我がする

藤波の影なすの底清み沈く石をも玉とぞ我が見る

すめろきの遠御代御代はい重き折り酒飲みきといふぞこのほほがしは

渋谿をさして我が行くこの浜に月夜飽きてむ馬しまし止め

我がここだ待てど来鳴かぬほととぎすひとり聞きつつ告げぬ君かも

娘子らが後の標と黄楊小櫛生ひ変り生ひて靡きけらしも

東風をいたみ奈呉の浦廻に寄する波いや千重しきにひわたるかも

遠音にも君が嘆くと聞きつれば哭のみし泣かゆ相思ふ我れは

世間の常なきことは知るらむを心尽すなますらをにして

卯の花を腐す長雨の始水に寄る木屑なす寄らむ子もがも

鮪突くと海人の燭せる漁り火の穂に出ださむ我下思ひを

我がやどの萩咲きにけり秋風の吹かむを待たばいと遠みかも

かくばかり恋ひしくあらばまそ鏡見ぬ日時なくあらましものを

あをによし奈良人見むと我が背子が標めけむ黄葉地に落ちめやも

あしひきの山の黄葉にしづくあひて散らむ山道を君が越えまく

この雪の消残る時にいざ行かな山橘の実の照るも見む