檜原湖の赤腹魚を夏の炉にあぶる
夏炉の火消えたり山は雲湧ける
梅雨雲の渦巻く夜雲山をとぢぬ
夜鷹鳴き檜原湖に高き星ひかる
とぢし門あはれ菖蒲のかくれなき
菖蒲咲き朝風波を刷きにけり
爪紅が咲きぬその花の眼をさそふ
爪紅やつひに相見ぬひと悲し
龍膽を活け香を焚きひとり居る
松青く垂れし元日の林泉に入る
元日の林泉しづかなり鳴くは鵯
数奇屋あり輪飾かけてあけはなつ
冬紅葉簷にさしいで爐ありけり
初日さす松はむさし野にのこる松
冬紅葉常見る松を高くしぬ
鴨ひとつ霜の朝空を翔けきたる
鴨つどひ朝澄む池に波おこる
今朝の霜鴨の汀まで眞白なり
鴨のこゑ霜凍る朝をかきみだす
野火見つつここに陶焼きし火をおもふ
さくら咲きわづかにしぬぐ松青し
さくら咲き池の浮寝のかぞふべし