人麻呂
み狩する狩場の小野のなら柴の馴れはまさらで恋ぞまされる
よみ人しらず
有渡濱の疎くのみやは世をば経む波のよるよる逢ひ見てしがな
よみ人しらず
東路の道のはてなる常陸帯のかごとばかりも逢はむとぞ思ふ
よみ人しらず
濁り江のすまむことこそ難からめいかでほのかに影を見せまし
よみ人しらず
時雨降る冬の木の葉のかわかずぞ物思ふ人の袖はありける
よみ人しらず
ありとのみおとに聞きつつ音羽川わたらば袖に影も見えなむ
よみ人しらず
水茎の岡の木の葉を吹きかへし誰かは君を恋ひむとおもひし
よみ人しらず
わが袖に跡ふみつけよ濱千鳥逢ふことかたし見てもしのばむ
中納言兼輔
冬の夜の涙にこほるわが袖のこころ解けずも見ゆる君かな
藤原元真
霜こほりこころも解けぬ冬の池に夜ふけてぞ鳴くをしの一聲
藤原元真
なみだ川身も浮くばかりながるれど消えぬは人のおもひなりけり
藤原実方朝臣
いかにせむくめぢの橋の中空に渡しも果てぬ身とやなりなむ
藤原実方朝臣
たれぞこの三輪の檜原も知らなくに心の杉のわれを尋ぬる
小辨
わが恋はいはぬばかりぞ難波なる葦のしの屋の下にこそたけ
伊勢
わが恋はありその海の風をいたみ頼りによする波のまもなし
藤原清正
須磨の浦に蜑のこりつむ藻鹽木のからくも下にもえわたるかな
源景明
あるかひもなぎさに寄する白波のまなく物思ふわが身なりけり
貫之
あしひきの山下たぎつ岩浪のこころくだけて人ぞこひしき
>貫之
あしひきの山下しげき夏草のふかくも君をおもふころかな
坂上是則
をじかふす夏野の草の道をなみしげき恋路にまどふころかな