和歌と俳句

若山牧水

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止むべしと ただにはおもへ 杯に 匂へるこれの まへにすべなし

笹の葉の 葉ずゑのつゆと かしこみて かなしみすする このうま酒を

山出でて 尾長の鳥の あそぶらむ 松代町の 春をおもふよ

尾長鳥 垂尾うつくし 柿若葉 柘榴の花の 庭にまひつつ

啼く声の みにくかれども 尾長鳥 をりをり啼きて 遊ぶ美し

うつつなく 遊ぶさまかも 尾長鳥 あらはに柿の 若葉にはをる

斯くばかり 馴れて遊べる 美しさ 尾長の鳥を 山にかへすな

雨降る 天城の山の 篠原に 立てる牡鹿を 君見たりてふ

雨降れば 出づることありてふ 天城嶺の 鹿を君見き 梅雨の雨のなかに

ししむらの 尻のまろみに 白き毛を 見せつつ鹿の 歩み去りしてふ

おのづから 立てる姿の うつくしき 鹿を見してふ 篠の原のなかに

羨しさよ 百山千山 わけ行きき あそべる鹿を いまだわが見ず

鹿の居る 天城の山と おもふとき 天城の山は なつかしきかな

青篠の 池はちひさし 山のうへに まろく湛へて 真澄みたるなり

天城嶺の 峰にたたふる 青篠の 池の清水を 思へばかなしも

枯れしぞと あきらめてゐし 孟宗の 赤き葉は落ち 幹青み来ぬ

梢切りて 植ゑならべたる 孟宗の 葉は落ちつくし 根づきたるかも

竹植ゑなば 根がたにごみを 捨てよとふ 埃を捨つるよ わが楽しみに