和歌と俳句

若山牧水

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松が枝に 鴉とまりつ おもおもと 枝さき揺れて 枯葉散りたり

この頃の 部屋の障子に さす日影 親しいかなや 冬に入りたる

池尻の 落葉だまりに 水あびて あらはなるかも 一羽の小鳥

この朝よ 木枯吹かむ けしきなり ひむがしの空に 雲低く散り

枯葉いま 落つるさかりの 桑畑の 広きに居りて 人の耕す

道ばたの 井手の流の うちあぐる 水音聞ゆ 冬野ゆくわれに

路ばたに ながるる井手の 水澄みて 枯草の蔭を 流れたるかも

近からば つみて帰らむ この井手に 冬うつくしう 芹ぞ生ひたる

返り咲ける 木瓜のくれなゐ 枯草の 根がたの土に つきて咲きたる

かき坐り 膝のめぐりの 落葉の色 めでつつあれば 日のさしてきぬ

冬枯れし 枝のあひ漏れて さしてをる この日の色の あたたかきかな

犬柘植の 若木の枝葉 しげかるに 散りつもりたる 栗櫟の葉

うづたかき 落葉のうへに 置きてみれば わが弁当の さいの美し

手にもてる ガラスのコプの 酒にさす この木洩日は 冬の木洩日

夜には降り 昼に晴れつつ 富士が嶺の 高嶺の深雪 かがやけるかも

冬の日の 凪めづらしみ すがれ野に うち出でて来て あふぐ富士が嶺

天地の こころあらはに あらはれて 輝けるかも 富士の高嶺