和歌と俳句

釈迢空

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山びとは、轆轤ひきつつあやしまず。わがつく息の 大きと息を

誰びとに われ憚りて、もの言はむ。かそけき家に、やまびととをり

沢蟹をもてあそぶ子に 銭くれて、赤きたなそこを 我は見にけり

わらはべのひとり遊びや。日の昏るる沢のたぎちに、うつつなくあり

友なしに 遊べる子かも。うち対ふ 山も 父母も、みなもだしたり

木ぼっこの目鼻を見れば、けうとさよ。すべなき時に、わが笑ひたり

山道に しばしばたたずむ。目にとめて見らく さびしき木ぼっこの顔

山峡の激ちの波のほの明り われを呼ぶ人の声を聞けり

人も 馬も 道ゆきつかれ死ににけり。旅寝かさなるほどのかそけさ

道に死ぬ馬は、仏となりにけり。行きとどまらむ旅ならなくに

邑山の松の木むらに、日はあたり ひそけきこもよ。旅びとの墓

ひそかなる心をもりて をはりけむ。命のきはに、言ふこともなく

ゆきつきて 道にたふるる生き物のかそけき墓は、草つつみたり

家ごとを処女にあづけ、年深く二階に居れば もの音もなし

水桶につけたるままの菊のたば 夜ふかく見れば 水あげにけり

紫陽花の まだととのはぬうてなに、花の紫は色立ちにけり

あぢさゐの蕾ほぐれず 粒だちて、うてなの上に みち充ちにけり

さるとりの若き芽生ひの、ひたぶるに なよめくものを 刺たちにけり

さるとりの鬚しなやかに濡れにけり。露はつばらに、こまやかにして

うすみどり まだやはらかに、つづらの葉。つやめく赤に筋とほりたり

たえまなく 梢すく風に日かげ洩り、はげしきものか。下草のかをり