ながき夜の ねむりの後も、なほ夜なる 月おし照れり。河原菅原
川原の樗の隈の繁み繁みに、夜ごゑの鳥は、い寝あぐむらし
川原田に住みつつ曇る月の色 稲の花香の、よどみたるかも
かの見ゆる丘根の篶原 ひたくだりに、さ夜風おだやむ 月夜のひびき
をちかたに、水霧ひ照る湍のあかり 龍女のかげ 群れつつをどる
光る湍の 其処につどはす三世の仏 まじらひがたき現身。われは
ひたぶるに月夜おし照る河原かも。立たすは 薬師。坐るは釈迦文尼
湍を過ぎて、淵によどめる波のおも。かそけき音も なくなりにけり
時ありて 渦波おこる淵のおも。何おともなき そのめぐりはも
うづ波のもなか 穿けたり。見る見るに 青蓮華のはな 咲き出づらし
水底に、うつそみの面わ 沈透き見ゆ。来む世も、我の 寂しくあらむ
川霧にもろ枝翳したる合歓のうれ 生きてうごめく もののけはひあり
合歓の葉の深きねむりは見えねども、うつそみ愛しき その香たち来も
霜凍ての、ぬくもり解くる西おもては、夕かげすでに もよほしにけり
目ふたぎて いまは睡ねど、しづごころ 怒りに堪ふる思ひになり来
たはやすく 人の言をまことあるものとし憑む。さびしき我がさが
鉄瓶の 鳴り細りゆく暗闇の 燠火のいろに、念ひ凝すも
面むかへば、ただちに信じ、ひたぶるに心ゆるす すべなきわがさが
とまりゆく音と聞きつつ 目に見えぬ時計のおもてに、ひた向ひ居り
いきどほる心おちつく すべなさや。門弟子ひとり 今宵とめたり
もろともに 若きうれひはとひしかど、人の悔しき年にはなりつ