朝やけのあかりしづまり、ほの暗し。夏ぐれけぶる 島の藪原
藷づるのすがるる砂は けぶりたち、洋の朝風 しまを吹き越ゆ
洋なかの島に越え来て ひそかなり。この島人は、知らずやあらむ
をとめ居て、ことばあらそふ声すなり。穴井の底の くらき水影
をとめのかぐろき髪を あはれと思ふ。穴井の底ゆ、水汲みのぼる
島の井に 水を戴くをとめのころも。そろ襟細き胸は濡れたり
鳴く鳥の声 いちじるくかはりたり。沖縄じまに、我は居りと思ふ
あまたゐる山羊みな鳴きて 喧しきが、ひた寂しもよ。島人の宿に
島をみなの、戻りしあとの静けさや。縁のあかりに、しりのかたつけり
かべ茅ゆ洩れゆく煙 ひとりなる心をたもつ。ゆふべ久しく
目ざめつつ聴けば、さびしも。壁茅のさやぎは いまだ夜ぶかくありけり
人の住むところは見えず。荒浜に向きてすわれり。刳り舟二つ
糸満の家むらに来れば、人はなし。家五つありて、山羊一つなけり