和歌と俳句

釈迢空

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大正10年

朝やけのあかりしづまり、ほの暗し。夏ぐれけぶる 島の藪原

藷づるのすがるる砂は けぶりたち、洋の朝風 しまを吹き越ゆ

洋なかの島に越え来て ひそかなり。この島人は、知らずやあらむ

をとめ居て、ことばあらそふ声すなり。穴井の底の くらき水影

をとめのかぐろき髪を あはれと思ふ。穴井の底ゆ、水汲みのぼる

島の井に 水を戴くをとめのころも。そろ襟細き胸は濡れたり

鳴く鳥の声 いちじるくかはりたり。沖縄じまに、我は居りと思ふ

あまたゐる山羊みな鳴きて 喧しきが、ひた寂しもよ。島人の宿に

島をみなの、戻りしあとの静けさや。縁のあかりに、しりのかたつけり

かべ茅ゆ洩れゆく煙 ひとりなる心をたもつ。ゆふべ久しく

目ざめつつ聴けば、さびしも。壁茅のさやぎは いまだ夜ぶかくありけり

人の住むところは見えず。荒浜に向きてすわれり。刳り舟二つ

糸満の家むらに来れば、人はなし。家五つありて、山羊一つなけり