臥りゐて つくづく久し 萩の葉の 露の一つに 我目とめをる
風たちて こまかに落つる 竹の葉は 日の照る方へ みなちらふなり
篁に そよぎ閑けき 日の光 吾子が昼寝の 時ちかづきぬ
水うちて 赤き火星を 待つ夜さや 父は大き椅子に 子は小さき椅子に
浪の音に 妻とい対ふ かかる夜は 星合の空を 来る小鳥あらむ
萩すすき にほふ日頃の 親しくて 通らせてもらふ となりの道を
萩すすき 観つつ隣れば うらやすし 今さらかはす 言のすくなさ
宵はまだ 啼くくだまきの 気近くて 照明笠親し 童話読みつぐ
くつわ虫 爆ぜて気近き 外の藪に 赤み恋しき 月円くあり
常よりは 月夜明るき 棕梠の葉に 糸瓜さがりて 風そよぐ見ゆ
小夜ふけて 吾子が寝顔 かがやくは 望月の輪か 照り宿るらし
童べに 母の乳滴る 夜明がた 蟋蟀の声は 冷えてやみにし
豆柿に 目白群れ来る 朝かげは 窓に面出し 子と楽しみぬ
のどけくも ゆゆしき野火か 山越しに 黄色の煙 ふた塊あがれり
山ひと山 なだりとよもし 鳴りのぼる 大野火赤し ひろごりにけり
春まひる 向つ山腹に 猛る火の 火中に生るる いろの清けさ
春山の 尾根もとどろに 燃ゆる火の たちまちさびし 消ゆらく思へば
大野火に いささか遠き 山の尾を なづさふしろき 雲にぞありける
吾庭の 梅雨の雨間の 花どころ 藜しげりて 青がへる啼く
まさやかに 今朝し垂りたり いついつと 待ちにし栗のしだり房花
梅雨のまを となりの畑へ くぐり出て 落梅をひらふ 吾が家の落梅
走る汽車 クレオンで描けと いふ子ゆゑ 我は描き居り 火をたく所
月よみの 光すずしく なりにけり 通草の莢は いまだ青きに
春もまだ 物書きいそぎ いとまなし 風呂立てさせて 夕べ過ぎたり
母としか 湯には入らずと 子は云へり ひとりひたれり 梅の蕚見て
梅の蕚 赤く見づらし 湯にひたり 水鉄砲を 吾子とはじかす