北原白秋

夏雲の下蒸す霞陽ににほひ機はあがりをり音速みつつ

夏山にたたふる池塘愛しくは魚らかすかに孵りつらむか

空翔けて愛しとぞおもふ濃きみどり植林の原に劃る白線

峯ちかく雲のむらだちしきりなるみづうみのうへを飛びをり我は

山水に一刷毛ながす朱砂の色たまゆら我は見つつ飛び過ぐ

信貴のやま下べ木邃く見おろして九輪の塔は夕光いまは

夏はげに精進いみじき我が子らが言するどかり響く立雲

信貴の山榧のこずゑに照る月のそれまでを見て我やねぶりし

夏山は聴きの邃きかときをりを角高き鹿の伸びあがりつつ

朝山は風しげけれや夏鳥の百鳥のこゑの飛びみだれつつ

鳥のこゑここださわだつ裾野原富士は若葉の時いたりける

嵐ふく富士の真木原夏まけて百鳥のきそふ声は騰れり

樅のうれ霧たちこむる明方はじふいちのこゑもまだ寒くあり

筒鳥の啼き合ふきけば日の曇りほうほうとして芽立落葉松

物の葉の下葉あかりに飛ぶ声はるりびんずいのたぐひなるべし

昼いでてひとり我が見る須走は水はしりながれ蓮華つつじの花

山がはの岩しづかなる日の曇り大瑠璃のこゑのたちて後消つ

和歌と俳句