木下利玄

山百合の咲かんとおもひ萱ふかき土よりいでてふくらむ莟

女郎花ふくむ萱山濡れなびき雨は嵐にならんとするも

通り雨とほりをはればいや高く雲のきれめに蒼き空見ゆ

四方の山に雲居雨ふり昼ふかし街の温泉にひたりに行かな

舟とめてわりごひらきをればしづかなり岸の萱生に昼顔は咲き

岩の間に昼潮たたへきりぎしに萱草咲きてさびしきところ

きりぎしの石間に根ざしのびいでし青茎の上の萱草の花

磯の日は今くもりをり崖の上にはびこる葛の葉あまねく青し

雲通り磯の日くもれり渚近き墓地ににほはし紅葵の花

松の間の茶屋の莚に大き蟻這ひまはり居る山の日ざかり

日盛りの光みなぎり松の梢の行ひけざやかに見ゆ

松の梢に山の風鳴れば羽ばたきて巣立たんとする鶴の雛かも

山かひのわづかの畑のささげ豆畑つくり人今日は来ずけり

心がちに大輪向日葵かたむけりてりきらめける西日へまともに

子供らの遠き泳ぎをはげますと教師は舟にて太鼓たたけり

子供らはおよぎかへり来護衛船やうやく大きく見えてきたりぬ

畑坂に通り雨はれ桑の葉の濡れ照りあつしうつむきてのぼる

にはか雨おとろへきたり山にたつ靄こそ見ゆれ小屋の戸いでむ

急雨さり牛小屋の戸をいづる時裾にちりたる鳳仙花の露

すすき葉のさ青長葉のしげり葉のするどに垂れて風あらずけり

すすき葉のさ青垂葉のするどなる葉さきにさやり指はきらせじ

夏光おとろへにけりながながとわがかげうごく穂をはらむ田に

縁台に寝てあふむけば夜露ふる遠星空がわが真上なり

灯をもてば廊下のてりの足下にひややかなれやまだ宵のあさく

漕ぎ入れば湖尻細江岸たかみ舟より見上ぐる犬蓼の花

和歌と俳句