旅の空のこりの月に行く人も今や越ゆらむ逢坂の関
霜ののちひとり残れる谷の松春のひかりのさす時もがな
ももしきや流れ久しき河竹の千代のみどりは君ぞ見るべき
子をおもふ事はかはらじ夜の鶴いかでくもゐに聲きこゆらむ
奥山の岩根の苔ぞあはれなる終には人の衣と思へば
頼むかな我がたつそまと祈りおきて山のかひある峯のけしきを
比叡をやま岩きりとほす谷川のはやきしるしを猶たのむかな
鶉なく粟津の原の篠すすき過ぎぞやられぬ秋の夕暮
逢坂の関の関守老いにけりあはれとおもふあはれとおもへ
東路や瀬田の長橋むかしより幾千代へよと渡しそめけむ
何となく心ぞとまるそれとみてこき離れゆく蟲明の松
かりそめの旅の別れとしのぶれど老いは涙もえこそとどめね
かきすつるあまのもしほの草枕こころぞとまる和歌の浦風
山里はたへてもいかが過ぐすべき松の嵐に鹿も啼くなり
秋暮れぬ今はわれみむ住み馴れし山田の庵は紅葉散るらむ
昔だに昔と思ひしたらちねの猶こひしきぞはかなかりける
夢とのみ過ぎにし方は思ほえで覚めても覚めぬ心地こそすれ
なほ厭へ蓮のたち葉の露だにもこの世の池は風散らしけり
世を照らす日吉とあとをたれてけり心の闇をはるけざらめや
君が代ははこやの山に千代をつみて富士の高嶺にたちまさるまで