吹き拂ふ 立髪の風 夏冴えて 四つの蹄に 稲妻ぞ飛ぶ
善き酒の もたひの春も 名残かな 惜むべき落花 君掃ふ莫れ
朧夜の 辻占賣を 呼びとめて 辻占買ひて 禿走り行く
大臣の 櫻の宴や はてつらん 霞が関を 馬車歸るなり
わくらばに 庵訪ひ来る 人あらば 薬掘らんと 出ぬとこたへよ
草わけて しめぢを取ると うれしくも 大松茸を 見いでたる哉
小櫻の 君が時問ふ 聲ぼけて 鐡棒の音に 夜は更けにけり
おろしやの 鷲の巣多き 山こえて いづくに君は 行かんとすらん
朝な朝な 掃き集めたる 落椿 紅腐る 古庭の隅に
箱根路の 関屋の跡を とめくれば 賤の童が 薄刈るなり
亡き母の 西にいますと 聞きしより 夕づつこひし 我も行くべく
日にうとき 庭の垣根の 霜柱 水仙にそひて 炭俵敷く
武蔵野に 春風吹けば 荒川の 戸田の渡に 人ぞ群れける
木曾山の 山の峡より 我行けば 笠の端わたる 五月雨の雲
唐黍を 剥ける女よ 宿り貸せ 道に迷へる 旅人ぞ吾は
おのが子を うしろになして 矢表に 立つ猿だに あるものを人
住みわびし 家の様こそ ただならぬ 海棠咲ける 寒竹の垣
衣更へて 端居し居れば 蝦夷の人の 手紙届きぬ 花咲くとあり
蒲殿が はてにしあとを 弔へば 秋風強し 修善寺の村
夕されば 狼吠ゆる 深山路に 手のひら程の 蔦ぞ散りける
ふたたびは 出でじとぞ思ふ 山の奥に 狼啼いて 来る人もなし
故さとに 我に五反の 畑あらば 硯を焚きて 麦うゑましを