旅人の 雉子追ひ行く 野は盡きて つつじ花咲く 岩の下道
塀低き 庄屋のつつじ 咲きにけり 代官殿は いまだおはさず
品川の 君待つらしを 花盛 向嶋に行かず 御殿山に行く
日のささぬ おどろがもとの 花菫 薄紫に 咲きにけるかな
菜の花に 日は傾きて 夕雲雀 しきりに落る 市川の里
撫し子の 花賣るをとめ なでしこの 花にぞ似たる なでしこをとめ
笛の音の そことも知らず 須磨の浦 夢路に似たる 春の夜の月
七年の 旅より歸る 我が宿に 妹が聲して 砧打つなり
潮早き 淡路の瀬戸の 海狭み 重なりあひて 白帆行くなり
うつらうつら 病の床を 出づる魂の 菫咲く野を たちめぐりつつ
昔見し 面影もあらず 衰へて 鏡の人の ほろほろと泣く
なまよみの 甲斐の黒駒 久方の 月毛の駒と あひいばえつつ
如是我聞 佛の道に 入る者は 蓮の花の 上に生ると
梅園に 老い行く年を 臥す龍の 爪もあらはに 花まばらなり
軒並ぶ 賤が伏家の 門川に 山吹咲いて 蛙鳴くなり
淋しさに 堪へたる山の 閑子鳥 旅人を見て 鳴きしきるらん
寐静まる 里のともし火 皆消えて 天の川白し 竹藪の上に
人知らぬ 竹の根岸の 奥深く 我すむ宿は 鶯に聞け
歌の道を 守りたまへと 祈る夜の 玉津嶋姫 夢に見えつつ
百年の 命にかふる ねぎ事を あはれきこしめせ 八百萬の神