和歌と俳句

正岡子規

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うらうらと 春日さしこむ 鳥籠の 二尺の空に 雲雀鳴くなり

笠買ふて 都出て行く 人多し 雲雀鳴く頃 木瓜開く頃

春風の 利根のわたりに 舟待てば 雲雀鳴くなり 莚帆の上に

麥畑に 巣立ちしあへぬ 子雲雀の 夕風寒く 親や呼ぶらん

飛び上る 雲雀の聲の 空に消えて 天つ御神の 音つれもなし

麥の葉に 風吹きわたる 旅心 菅笠の上に 雲雀鳴くなり

原中の 落草浅み 風吹きて 夕日の雲雀 巣にぞ鳴くなる

雲の上に わが思ふ人の 住みもせば あがる雲雀に ことづてましを

遠山は 霞に消えて 絲ゆふの みだるる空に 雲雀鳴くなり

山の端の 紫の雲に 雲雀鳴く 春の曙 旅ならましを

麥植うる 小島を近み たまたまに 雲雀鳴く也 帆檣の上に

一つ家の 南の窓の 山遠み 杉垣の外に 雲雀立つ見ゆ

木をひしぎ 巌を砕く 響きして 木曾の深山は 雪なだれせり

遠近に 菜の花咲きて 朝日さす 榛の木がくれ 人畑を打つ

北うけて 雪まだ残る 竹藪の 藪陰寒し 梅五六本

襁褓干す 賤が伏家の 井の端に 白梅散りて 紅梅の咲く

岡こえて 利根川近し 風そよぐ 麥の葉末に 白帆行く見ゆ

青麥の 畑の中道 道尽きて 渡りもあらず 川よこたはる

賤の住む 家居まばらに 梅咲ける 里のけしきは 見れどあかぬかも

いたつきに 三年こもりて 死にもせず 又命ありて 見るかな

ひとりゆく 春の山踏 花もてる くしき少女に 逢ひにけるかも