牛がひく 神田祭の 花車 花がたもゆらぐ 人形もゆらぐ
かけまくも あやにかしこき すめろぎの 御親の柩 引きし牛はも
親牛の 乳をしぼらんと 朝行けば 飢ゑて人呼ぶ 牛の子あはれ
母牛の うま乳のまんと さわぐ子を 追ひはらひたる 人の親の心
うぶすなの 石の鳥居を 引きて行く 牛の力は 神力かも
古國の 伊予の二名に 馬はあれど 牛がしろかく 堅土にして
牛むれて 歸る夏野の 夕ばえの かがやく色を たくみにかきぬ
春の夜の 網代の車 きしらせて 牛追ふ人の 聲おぼろ也
スパニアの ますらたけりを けだものゝ 牛と闘ふ ますらたけりを
八千巻の 書讀み盡きて 蚊の如く 痩す痩す生ける 君牛を喰へ
春雨の しのぶが岡に ぬれてさく 櫻をいづる 傘の上の花
霜解の 下駄の跡多き 古庭に 萩の芽もえて 春雨のふる
葛飾の 小梅の里の 小田ぞひに 春雨小傘 行くは誰か妹
江の島へ 通ふ海原 路越えて みちくる春の 汐の上の雨
同じ窓に まなぶわらべの 櫻見に むれて来る日を 雨ふりいでぬ
ともし火の 光に照す 窓の外の 牡丹にそゝぐ 春の夜の雨
櫻さく 下道行けば 小雨ふる 花の雫の 笠の上に落つ
ぼんぼりの ともし火多き 吉原の 櫻の雨に 夜を遊びけり
人も来ぬ 櫻が岡に 咲きをゝる 櫻の雨に 鴉なくなり
霜おほひの 藁とりすつる 芍薬の 芽の紅に 春の雨ふる