和歌と俳句

正岡子規

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うらゝかに ガラスを照す 春の日に にはかに曇り 雹ふり来る

ともし火の もとに長ぶみ 書き居れば 鳴きぬ 夜や明けぬらん

詩をつくる 友一人来て 青柳に 燕飛ぶ畫を かきていにけり

翁さび 火鉢かへして 猩々が 火事おこしきと 聞けば可笑しも

歌をよみ つどひし人の 歸る夜半を 花を催す 雨瀧の如し

詩人去れば 歌人坐にあり 歌人去れば 俳人来り 永き日暮れぬ

實方の 墓辺に生ひし やぶかうじ 人に抜かれて 歌によまれけり

飼鳥の 小鳥の餌にと 植ゑおきし 庭の小松菜 花咲きにけり

から桃の 花をいけたる かたはらに 玉の小櫛を とりあはせし圖

句つくりに 今日来ぬ人は 牛島の 花の茶店に 餅くひ居らん

ガラス戸の 外面さびしく ふる雨に 隣の ぬれはえて見ゆ

歌がたり 夜はふけにけり 立川の 君が庵に 牛の乳取る頃

我顔ヲ 鏡ニ寫シ 其顔ヲ 土ニカタドリ 土ノ坊主成ル

我顔ヲ 鏡ニ寫シ カタトリシ 竹ノ里人 手ツクネノ像

我顔ヲ 見テカタトリシ 土ガタハ 我顔ニ似ズ アラヌ顔ニ似ル

混沌ガ 二ツニ分レ 天トナリ 土トナルソノ 土ガタワレハ

土ガタニ 自ラツクル 我顔ノ スコシユガミテ 猶オモシロシ

人ガタヲ 入レタル鑵ヲ 携ヘテ 秀眞ガリ行ク 途中気ヲツケヨ

此次ニ 何ヲコネンカ 驚ク莫レ 大慈大悲ノ 観世音菩薩

観音ヲ 寫生ナサント 思ヘドモ 観音アラズ 似タル女モガ

方丈ノ 室ニコモリテ 捏ネント 思フ二丈五尺ノ 土ノ廬舎那佛