和歌と俳句

正岡子規

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田ゐ中の 小川の根芹 つます子ら 根芹つみやめ わがつまむ汝に

鳥見にと 我来し時に 玉かざる 孔雀大鳥 尾をひろげたり

百千たび 妹があたりを 見かへれど なほし見かほし 山こえがてに

古人の なほし見かほしと よみにけん かくの木の實は 春にもありけり

天雲の そくへのきはみ 神のます 御座尋ねて 常世につかへん

山川の そくへのきはみ 行く君を 送りて歸る 我しだぶしも

我庵の 西の隣に 家建ちて 梅さく梢の 塀の上に見ゆ

赤紙に いはひ言書き 部屋の壁に はれどあもらぬ さちはひの神

日の本の 陸奥の守より 法の王 パツパポウロに 贈る玉づさ

花の繪を 我に残しゝ 山の井の 浅井の君は スエズ行くらん

草枕 旅路さぶしく ふる雨に 菫咲く野を 行きし時の蓑

蕗の花 うゑし小鉢の かたはらに 取り亂したる 俳書歌書字書

まだ浅き 春をこもりし ガラス戸に 寒き嵐の 松を吹く見ゆ

春の夜の 衣桁に掛けし 錦襴の ぬひの孔雀を 照すともし火

玉飾る 高殿更けて たき物の 匂に曇る 春の夜の月

つくり花の 牡丹の花を 手にもちて 踊りつれたる 二むらの少女

君が倚る 朱のおばしま 小夜更けて 雪洞の火に 櫻散るなり

海棠の 花さく庭の 檻の内に 孔雀の鳥の 雌雄を飼ひたり

島の 孔雀の鳥が 笠の如く うちひろげたる しだり尾の玉

山川を 埋めてふれる 雪の中に 咲ける牡丹の 花只一つ

くれなゐの とばり垂れたる 窓の内に 薔薇の香満ちて ひとり寐る少女