亀井戸の 社をいでて 野の道を 左に曲る 臥龍梅の園
いにしへの きくうの園の 名をつぎし 梅の林の 壽星梅の碑
木下川の 流を近み 梅園の 垣の外面に 白帆行くなり
大森の 汽車を下りて 門を入れば 海を南に 梅咲ける岡
遠あるき わらじはきたる 若人が 蒲田の梅の 園に群れたり
淵にすむ 龍のあぎとの 白玉を 手に取ると見し 夢はさめけり
あら玉の 三年を臥しゝ 我今日 起きて坐りぬ うそにはあらず
歌をそしり 人をのゝしる 文を見ば 猶ながらへて 世にありと思へ
から歌に つくりめでたし 君が庵の 梅の林は 今咲くらんか
折にふれて 思ひぞいづる 君が庵の 竹安けきか 釜つゝが無きか
たらちねの うなゐ遊びの 古雛の 紅あせて 人老いにけり
高殿に 春の寒さを たれこめて 朝寝し居れば 花を賣る聲
古鉢に 植ゑし菜の 花咲きて 病の牀に 起きてすわりぬ
もろこしの 女神がつけし 白玉の かざしに似たる 水仙の花
もろこしの 蘇氏が書ける 石文の 石摺の下の 水仙の鉢
上つ毛の 新桑繭の 小衾に 鴛鴦ぬひて 君を祝はん
野の中の 竹むら陰の 葱畑に 寒さ残りて 梅散りにけり