和歌と俳句

芥川龍之介

茨刈る手になつかみそ蝸牛

木の枝の瓦にさはる暑さかな

点心はまづしけれども新茶かな

川狩や陶淵明も尻からげ

花百合や隣羨む簾越し

更くる夜を上ぬるみけり鰌汁

昼深う枝さしかはす茂りかな

別るるや真桑も甘か月もよか

日傘さし荷蘭陀こちを向きにけり

葛水やコツプを出づる匙の丈

来て見れば軒はふ薔薇に青嵐

刈り麦もこぼれかかりつ草苺

うねうねと枝に縫はるる茂りかな

風先に枝さし揃ふ若葉かな

山風の暁落ちよ合歓の花

ひな芥子は花びら乾き茎よわし

びいどろに葛水ともし匙の丈

竹の根の土に跨る暑さかな

つるぎ葉に花のおさるるあやめかな

盃中花さきに咲いたはあやめかな

咲きたらぬ庚申薔薇を青嵐

尊しや若葉を盛れる東山

土用浪砂すひあぐるたまゆらや

蒲の穂はほほけそめつつ蓮の花

皿鉢の赤画も古し今年竹

黒南風のうみ吹き凪げるたまゆらや

大うみや黒南風落つる朝ぼらけ

荘厳の梁をまぶすや麦ほこり

苔じめる百日紅や秋どなり

日ざかりや青杉こぞる山の峡

静脈の浮いた手にをとらへ

つくばひの藻もふるさとの暑さかな

鉄線の花さきこむや窓の穴

黒南風の大わだ凪げるたまゆらや

干し草もしめつてゐるや蓮の花

入日さす豊旗雲やほととぎす

日盛りや梢は曲る木の茂り

夕顔浅間が岳を棚の下

山川の瀬はあけぼのの河鹿かな

赤根さす昼や若葉の木の曲り

赤光や砲車ひきゆく馬の汗

臀立てて這ふ子おもふや笹ちまき

庭つちに皐月の蠅のしたしさよ

簀むし子や雨にもねまる蝸牛