槇の葉の あをの葉ずゑに つもる雪 きゆるゆきをば 見てありしかな
湯がりの ひとにまぢかく 居ることの 春はかなしき ひとつなるべし
ちりやすき はなのにほひに ふとふれて なりぬかなしき 空のつばめに
見ればげに 二十七なる わがつらと 驚かむとて わらふ白き歯
封切れば 枯れし野菊と ながからぬ 手紙と落ちぬ わが膝のうへ
狐にも 巣ありといへり さびしさや 林のおくの 眼にうつり来る
ひとりひとり 親しきひとと 離れゆく このはかなさの 棄てがたきかな
松も見ゆ しら梅も見ゆ 或るころの さびしき安房を おもひ出づれば
梅やらむと われをさがして 来しひとと 松のはやしに 行きあひしかな
梅つぼむ ころともなれば いづくより このかなしさは 身にかへるらむ
ただ二日 我慢してゐし この酒の このうまさはと 胸暗うなる
暗く重き こころをまたも たづさへて 見知らぬ街に 巣をうつすかな
移り来て 窓をひらけば 三階の したの古濠 舟ゆきかふよ
ふうらりと ふところ手して 住み馴れぬ 門を出づるは うらさびしけれ
移り来て 見なれぬ街路の 床屋より いづるゆふべの くびのつめたさ
漂泊の かたみに残す ひげなれば 斯くやあはれに 見えまさるらむ
星あをく ながれて闇に かげひきぬ わがふところ手 さむし街路ゆく
買ひきたり こよひかく着て ぬる布団 うりはなつ日は またいつならむ
さびしさの とけてながれて さかづきの 酒となるころ ふりいでし雪
雪ふるに さけをおもひつ 酒飲みぬ ひとりねむるは なにのさびしさ