和歌と俳句

若山牧水

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がらす戸に ふりかかる雨 三粒四粒 かずわかずなりて 揺るる大枝

しつとりと 垂れて動かぬ 曇り日の わか葉の枝を くぐるさびしも

朝の街 いそぎ通れば をちこちに 青葉そよぎゐて 酒ほしくなれり

父の眼の つめたき光 うつつなき 児にもわかるか 見ればさびしげ

いふことは すべて空しと 誓ひつつ さりとても身の ただにさびしく

麦畑の くろにならべる 四五本の 桃のわか木に 実のなれる見ゆ

何といふ 虫のおほさぞ 花しろき 大根ばたけの 土みてあれば

麦ばたの 垂り穂のうへに かげ見えて 電車過ぎゆく 池袋村

黄楊の木の はなの真白さ うとうとと 坂を登れば 植木屋の籬に

気まぐれの 途中下車して 温泉町 停車場出れば 葉ざくら暗し

眼に立たぬ 宿屋さがして 温泉町 さまよひ行けば 河鹿なくなり

湯の町の 葉ざくら暗き まがり坂 曲り下れば 渓川の見ゆ

ひとり来て ひそかに泊る 湯の宿の 縁に出づれば 渓川の見ゆ

碓氷川 川原をひろみ かたよりて 流るる瀬々に 河鹿なくなり

川上の 妙義巌山 白雲の おくにこもりて この朝見えず

みなかみの 峰にかかれる しら雲の いちじろくなりて 昼たけにけり

行き行けば 青桑畑 ひとすぢの 道をかこみて 尽きむともせず

みちばたの 桑の葉かげに 腰おろし 煙草すひ居れば 霧降り来る

その山は 雲にかくれつ 妙義道 直きかぎりに 桑畑曇る