ひと夜寝て わが立ちいづる 山かげの いで湯の村に 雪ふりにけり
起き出でて みるあかつきの 裏山の 紅葉の山に 雪ふりにけり
朝立ちの 足もと暗し 迫り合ふ 狭間の路に はだら雪積み
上野と 越後の国の さかひなる 峰の高きに 雪ふりにけり
今朝みるや 峰峰かけて はだらかに 雪ぞ降りたる 初雪ならし
初雪に この雪あらし あざやかに 紅葉の山に 降り積みにけり
はだらかに 雪の見ゆるは 桧の森の 茂れる山に 降れる故にぞ
桧の森の 黒木の山に うすらかに 降りぬる雪は 寒げにし見ゆ
遠山の 峰なる雪に 天雲の 影落つる見え 寒けかりけり
下草の 笹のしげみに 光りゐて ならび寒けき 冬木立かも
あきらけく 日の射しとほる 冬木立 木木とりどりに 色さび立てり
時知らず 此処に生ひ立ち 鋼なす 老木をみれば なつかしきかも
散りつもる 落葉がなかに 立つ岩の 苔枯れはてて 雪のごとみゆ
わが過ぐる 落葉の森の 木がくれに 白根が嶽の 岩山は見ゆ
遅れたる 楓一もと 照るばかり もみぢしてをり 冬木がなかに
枯木なす 冬木のはやし 行きゆきて ゆきあへる紅葉に こころ躍らす
聳ゆるは 樅栂の木の 古りはてし 黒木の山ぞ 墨色にみゆ
墨色に すめる黒木の とほ山に はだらに白き 白樺ならむ