断崕に かよへる路を わが行けば 天つ日は照る 高き空より
路かよふ 崖のさなかを わが行きて はろけき空を 見ればかなしも
木木の葉の 染れる秋の 岩山の そば路ゆくと こころかなしも
きりぎしに 生ふる百木の たけ伸びず とりどりに深き もみぢせるかも
歩みつつ こころ怯ぢたる きりぎしの あやふき路に 匂ふもみぢ葉
わが急ぐ 崖の真下に 見えてをる 丸木橋さびし あらはに見えて
散りすぎし 紅葉の山に うちつけに 向ふながめの 寒けかりけり
岩蔭の 青渦がうへに うかびゐて いろあざやけき 落葉もみぢ葉
片寄りに 青みをなせる 岩渓の 浅処にうかぶ 落葉もみぢ葉
こがらしの 凪ぎぬるあとを 夕焼す 渓に落葉の うかび流れて
苔むさぬ この荒渓の 岩にゐて 啼くいしたたき あはれなるかも
るづらをり はるけき山路 登るとて 路に見てゆく りんだうの花
さびしさよ 落葉がくれに 咲きてをる 深山りんだうの 濃むらさきの花
摘みとりて 見ればいよいよ 紫の いろの澄みたる りんだうの花
越ゆる人 まれにしあれば 石出でて 荒き山路の りんだうの花
笹原の 笹の葉かげに 咲き出でて 色あはつけき りんだうの花