嵐なす 羽風我が切り とよもすと 的の矢留の 空飛び抜けぬ
泣かむかに 我は突き入る 低空を 子らぞ騒げる その仰ぎ見に
命なり 散華の五色 早や撒きて 地に著かぬまを 突入す我は
六歳の子が 強く口緊め こらふるに 父なる我が 何ぞわななく
風立てて 我が家の空を 過ぎにける このたまゆらよ 機は揺れ揺れぬ
大揺れに 我が家の甍 すれすれと 飛び過ぎにける 今ぞその空
我が挨拶 夏は青田の ただ中と 子らを目がけて 落下傘落す
雲仙と 有明の海 ひと目見し たちまち喚き 機は旋回す
右に見し 今は左翼に ある海の 浩蕩として 筑紫潟ここは
いや騰り 国原恋ふる その父を この子は空に 神を見むとす
父の顔 ありありと見る 雲間にて 涙条なす 我堪へむとす
煙吐く 煙突林の 大傾斜 我が驚くと 見やる間も無し
夏照りの 山の小峡に ひそかなる 部落あり我は 空ゆ見むとす
童ひとり 空を仰ぐは 山中に 路あるならし 歩みゐるなり
母の里 外目の空は 雨雲の 間青く潤ひ 母の眼かとも
山方は 野町原町 北の関 その関越えて 官軍は来し
棚畑の 煙草の花の 夏霞 祖父のみ墓 今ぞ飛び越ゆ
石の井に 釣瓶は置きて 影ありし きのふの庭の 空通り過ぐ
老人の その眼に小さき 愛鷹と 見え来む我か 山は飛び越ゆ
町の長 その老ゆゑに 山峡の 小峡の関に 空翔けくだる