北原白秋

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大津の浜 目どほり白き 波際を 階上に見つ ビールぽんぽん抜かしむ

順礼の 墓とふ影が 大暑にて 山のかかりに あるがしづけさ

順礼の 山辺の墓は 日ざかりを せせり浮きたり 椀の清水に

潮見堂 ここにぞ天心先生は 潮眺めて 飽かず坐しにけむ

唐風の 画像思へば 大き人 いまも寛けく ここに居らすかも

六角堂 庇にしぶく 夕潮の 涼しきがほどを 我ら佇ち見つ

山越は 日のあるうちぞ ほどほどに 持て来てたもれ 道は遠きに

墨磨りに 山路越ゆると 女童や 硯も持ちて 幼なかるべし

少女子や 山は莠の 夕かげに 瓶子落して 笑ひたるらし

早や帰れ 火のひとつづり 見え来るは 迎ひの父か 山路気づかふ

かく在りて 趺坐し一夜 ありけらし その縁の端と 思ふに我は

岩の端に ことりともこの家 音せぬは 人坐さぬらし すさぶ夜の潮

潮ひびく 君が館の 跡どころ 小夜ふけて聴くに 磯は直ぐ下

草塚に こもろこほろぎ 潮騒の とどろ立つ夜を 鋭声しきりに

ここの門 庇に繁き 雑草の 内外の暑さ なほ消ち難し

庭苔の 地湿ながら 日おもては 朝から蒸して この大き草屋

鉢にして 花ひらきたる 朝顔の 五十あまり置きて 足蹇君は

朝顔の 幾花鉢や 張る肘の 君厳かしく 膝は平らに

雲居立ち 紫にほふ 筑波路を 麓に堪へて 足蹇君は

和歌と俳句