和歌と俳句

寂蓮法師

十一

君がため 春をきくこそ うれしけれ 心よわきは 花にのみかは

花ゆゑの 春まで君が 思ひけむ 心をしるも あはれならずや

朝夕に 思ひのみやる みづがきの ひさしくとはぬ もろ心かな

君はよし 久しく思へ みづがきの むかしとならむ 身のゆくへまで

夏虫の 身をともしける 光こそ 闇にまよはぬ しるべなりけれ

濡れて干す 菊の露だに あるものを いく千代かふる さみだれの空

しづかなる 音こそ風に かはるなれ 軒端の荻に 雨そそぐ夜は

わしの山 名残をあとの しるべにて 雪ふみわくる 法の庭人

今年より 奈良のみやこの 八重桜 おのがものとも 君ぞ見るべき

風吹かで なひくにしるし さゆり葉の 下より通ふ 庭の遣水

たづねつる 人は家路も 忘られて 花のみけふは ねにかへるかな

ひとりねの あたりにこゑは 通ひきて 契りはよその 枕なりけり

またも来ば 待つべき身こそ 帰る雁 秋までやはと うちながめつつ

蘆の葉も まだうら若き 津の国の こやのへだては 霞なりけり

言の葉に こころの色は 朽ちずして むなしきあとは 峰の白雲

月きよみ 波のちさとを かたしきて 枕のそこは ありあけの空

ふるさとに ひとむら薄 植ゑてだに なれし心を 野辺の夕暮

思ひ知りて 思ひおこする 人もがな みやまの秋に かへる心を

心こそ およばぬ山の おくなれど 秋のあはれは かへりつくまで

鈴虫の こゑも山辺に きこゆなり いかになるへき わが身なるらむ