和歌と俳句

源 実朝

聞きてしも驚くべきにあらねどもはかなき夢の世にこそありけれ

よの中にかしこきこともはかなきも思しとけはやめにぞありける

世中は鏡にうつる影にあれや在るにもあらず無きにもあらず

ほのをのみ虚空に見てるあひちこくゆくゑもなしといふもはかなし

塔をくみ塔をつくるも人の嘆き懺悔にまさる功徳やはある

大日種子よりいでてさまや形さまやきやう又尊形となる

神といひ仏といふも世の中の人の心のほかのものかは

時によりすぐればたみの嘆きなり八大龍王雨やめたまへ

とにかくにあなさだめなの世中やよろこぶものあればわぶるものあり

うばたまや闇のくらきに雨雲の八重雲かくれ雁ぞ鳴くなる

かもめゐる沖の白洲にふる雪の晴れゆく空の月のさやけさ

夜を寒みひとり寝覚めの床さえてわが衣手に霜ぞおきける

かかるおりもありけるものを手枕のひまもる風をなにいとひけむ

いはねふみいくへのみねをこえぬともおもひもいては心へだつな

都より吹きこん風のきみならば忘るなとだにいはましものを

うちたえて思ふばかりはいはねとも便りにつけてたづぬばかりぞ

みやこべに夢にもゆかむ便りあらばうつの山かぜ吹きもつたへよ

たち別れいなばの山のほととぎす待つとつげこせ帰りくるがに

山とをみ雲ゐに雁の越えていなばわれのみ一人ねにやなきなむ