和歌と俳句

源 実朝

をく山の 苔の衣に をく露は 涙の雨の しづくなりけり

み熊野の 那智のを山に ひくしめの うちはへてのみ 落ちる滝かな

いまつくる 三輪のはふりが 杉社 すぎにしことは とはずともよし

葵草 かつらにかけて ちはやふる 加茂の祭りを ねるや誰が子ぞ

ふりにける あけのたまかき 神さびて やれたる御簾に 松風ぞふく

月のすむ 北野の宮の こまつはら いくよをへてか 神さびにけむ

月さゆる みもすそ川の 底きよみ いづれのよにか すみはじめけむ

いにしへの 神世のかげぞ 残りける 天のいはせの あけがたの月

やをよろづ 四方の神たち あつまれり たかまの原に 木々たかくして

神風や あさ日の宮の みやうつし かげのどかなる 世にこそありけれ

きみがよに 猶ながらへて 月きよみ 秋のみ空の かげを待たなむ

おほきみの 勅をかしこみ 父母に 心わくとも 人にいはめやも

ひむがしの 国にわがをれば 朝日さす はこやの山の かげとなりにき

新勅撰集・雑歌
山はさけ 海はあせなむ 世なりとも 君にふたごころ 我があらめやも